【横山幸雄インタビュー】11/1(金)横山幸雄×ACOに向けて
[ベートーヴェンが新たな世界を切り開いた交響曲第3番とピアノ協奏曲第3番は、エネルギーと開拓精神に満ちあふれています]
横山幸雄&ACOベートーヴェン協奏曲ツィクルスが第3回を迎え、オール・ベートーヴェン・プログラムが登場する。これまでの2回を経て今回の選曲、意気込み、ACOとのコミュニケーション、ベートーヴェンへの思いなどについて横山幸雄に話を伺った。
「これまでピアノ協奏曲の弾き振りは何度も行っていますが、ACOとのこのツィクルスにあたり、“交響曲などの指揮をしてみたら“と提案され、驚きとともに新たな世界への挑戦だと考え、お引き受けしました。でも、交響曲や序曲などを指揮するのは総譜を勉強しなくてはなりませんし、弾き振りとはまったく指揮の仕方も異なります。でも、ACOは若いメンバーが多く、とても熱心で優秀で質問も多く出てくる。僕は毎回、自分の新たな面を見出すとともに意欲も増し、楽しんでいます」
前回まではハイドンやメンデルスゾーンが登場したが、今回はベートーヴェンを3曲。ベートーヴェンをこよなく愛す横山幸雄の各々の作品に対する深く熱い愛が凝縮する。
「ベートーヴェンは交響曲第3番とピアノ協奏曲第3番で、いわゆるベートーヴェンらしさを全面的に押し出した。その意味でこの2曲はエネルギーがあふれ、“ザ・ベートーヴェン“の始まりという感じです。2曲ともベートーヴェンの開拓精神に富み、音楽の深さやエネルギーが強く感じられる。指揮する上では、ACOは室内オーケストラですから全員の顔がよく見え、音も聴こえ、指示を出しやすいですね。親密的で全員がひとつの方向性を目指し、すばらしく完成した音楽が生まれます」
弾き振りに関し、またオーケストラを指揮する場合にもっとも大切にしているのは…。
「弾き振りは自分で音を出しますから、それとオーケストラのコミュニケーションを大切に考えます。でも、指揮の場合は全体の音のニュアンスとバランス、このふたつをもっとも重要視しています。指揮法に関しては、振り方やテクニックなど、あまり違いはありません。ただし、両方ともコンサートマスターとの連携は大変重要になりますね」
横山幸雄は、常に「ショパンとベートーヴェンがレパートリーの2大柱」と語っている。こよなく愛すベートーヴェンに関し、今回は「コリオラン」序曲も指揮することができる。
「《コリオラン》はドラマティックで大好きな曲です。その劇的な流れを《英雄》へとつなげ、最終的にコンチェルトへともっていく。選曲に関しては、この流れを意識しました。指揮はとても頭を使う仕事。ピアノを弾くのは、完全に自分のなかで構築し、それをすべて表現すれば完結するのですが、指揮は自分で音を出さないため総譜を徹底的に理解し、頭をフル回転させ、みんなと一緒にひとつの音楽を作り上げて行かなくてはなりません。頭がより明確にならないといい音楽は生まれません」
ピアノ協奏曲は番号順に演奏し、交響曲はハイドン、メンデルスゾーン、ベートーヴェンと進み、今後はシューベルト「未完成」、シューマン「ライン」が予定されている。横山幸雄は8月にフレンド・オブ・ACOに就任した。
「ですからACOとはこれからもいろんな作品で共演したいと考えています。僕の愛するフランス作品も演奏したいし、時間が許せば自分でピアノ協奏曲を作曲して一緒に演奏したい。でも、これには膨大な時間がかかる。まずは作曲家として敬愛するベートーヴェンの作品でその内奥に迫りたい。ベートーヴェンは耳が不自由にもかかわらず、生涯にわたって新たな世界を切り開くことを目指した。その進取の気性を演奏で表現したいですね」
横山幸雄&ACOががっちりタッグを組むオール・ベートーヴェン・プロ、彼らの作品に対する情熱とエネルギーを全身で受け止めたい。
音楽ジャーナリスト 伊熊 よし子